エグゼクティブインタビューVol. 9-前編:アデコグループ 日本法人 取締役 土屋恵子氏 「どう働くかは、どう生きたいかと同義」
日本が直面する人材育成の課題
I: なるほど。日本の企業がバブルを経て欧米流のビジネスを取り入れる中で忘れてしまっていたことを、今や欧米企業がむしろ人に重きを置いている。それに、日本の企業がまた気付き始めている、そんな循環になっているのですね。
T:そうですね。若手を育てるとか、全く違う考え方の人たちを迎え入れるという多様性を実現するという時に、そこにはチャレンジがあります。日本の大企業ほど、これまでのサクセス(成功体験)がありますから自分たちのサクセスを一生懸命教えてしまいますし、仲間にも自分たちのサクセスの中で活躍してもらいたいと思ってしまいがちです。結果としてなかなか多様性の実現スピードがスローになりがちです。そこは大企業にとってもチャレンジが必要で、如何にイノベーションを生み出す方向へ行けるかという別の課題があります。
I: これまでの指導のなかでうまく行った例もあれば、なかなかうまくいかなかった例もあると思いますが、失敗談や成功談を教えてください。
T: 途中での失敗はたくさんありますが、成功するまでやめないことが大事だと思っているので最終的には成功しているのだと思います。アデコには2015年に入りました。ちょうどAI、IOTといった新しいテクノロジーが盛り上がってきた頃です。
入社後、経営会議メンバーでワークショップを実施しました。その時のテーマは、如何にビジネスで勝ち残って行くかではなく、これからの働き方についてでした。人生100年時代と言われるなか、私たち自身だけでなく、すべての働く人々がどのように仕事と関わっていったらよいのかを自分事として話し合いました。そこで出た結論は、「どう働きたいかはどう生きたいかである」ということでした。ならば、なるべく場所や時間といった制約を取り払い、働き手が主体性を発揮しやすい環境を、経営層として作って行こうとなりました。
リモートワークできる新しい職場環境作りに向けて
I: 主体性を発揮しやすい環境づくりに向けて、実際どのような取り組みをされましたか?
T: その時すでに、フルフレックスは導入していましたが、出社して仕事をするのが当たり前になっている当時、リモートワークの導入と浸透は大きな課題でした。始めのころは、社員から「オフィスからお客さんのところに行く電車移動の時間も必ずスマホで仕事をする必要があるということですか?」という質問があったりもしました。議論はもちろん、就業規則を変えたり、クロスファンクションのプロジェクトチームやワーキンググループを立ち上げて、アデコグループジャパンとしての多様で柔軟な新しい働き方の実現に向けて取り組んできました。
I: 具体的に課題として上がった点は、どのようなことでしょうか?
T: オフィスに来ざるを得ないという理由として挙げられていたことのひとつに、各部署の代表電話がありました。電話をとらないわけにはいかないので、誰かがいる必要があると。そこで電話のシステムを入れ換えてIP電話を導入したり、全社員にPCとスマホを貸与したりして、出社しなくても対応できるようにしました。また、会社としてテレワークを推進していても、所属をしている部署の上長が消極的だとなかなか浸透しません。マネージャーとしても、新しい働き方が導入されて、どのようにメンバーを評価すればいいかなど、戸惑うところがいろいろとあったと思います。そこで、本部長も含むマネージャーの意識を変えるための研修も数多く実施しました。その結果、コロナ禍ではリモートワーク率が最大で95%となりました。途中でやめていたら全部失敗でしたが、大きな成功を収めることができました。
(Vol.9-後編へ続く)
プロフィール
土屋恵子(つちや・けいこ):アデコグループの日本支社であるアデコ株式会社に2015年8月取締役 人事本部長として入社。現在、取締役 ピープルバリュー本部 本部長。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 人事本部 ヴァイスプレジデント、GEグループ会社の太平洋地域統括 執行役員 人事本部長などを含め、20年以上にわたり人事育成部門をリードした経験を持つ。ケース・ウエスタン・リザーブ大学経営大学院組織開発修士課程修了。