「自己認識力はすべてのビジネスマンにとって大事な能力」日本M&Aセンター 三宅卓社長ー後編
リーダーはいかにしてリーダーになったのか。リーダー自身の言葉からその理由を紐解くインタビューシリーズの第3回では、日本M&Aセンター社長の三宅卓氏にお話を伺いました。昭和、平成、令和と社会もビジネスモデルも激変していく中、常にアグレッシブな経営姿勢でトップランナーとして走り続け、日本の中堅・中小企業のM&A実務における草分け的存在として活躍されています。インタビューの二回目は、日本M&Aセンター躍進の裏側と、ビジネスパーソンにとって必要不可欠なスキルについて尋ねました。
(第1回「ビジョンを明確にしてコミュニケーションを徹底する」はコチラから)
社員のベクトルを揃え、成長戦略へ
I:M&Aセンターに参加されてから、現在までのお話を聞かせてください。
M:最初の10年間は分林が(経営を)やっていましたが、年商3億円ぐらいで、利益が1億くらい。あまり成長していませんでした。私は外資系だったので、給料も高かったし、交際費も枠があった。こちらへ来てから正直言って給与も低いし、交際費も使えずで。面白くないな、と思って分林さんに「こんな状態やったら、会社どうなんですか。ふたつのどちらかに決めましょうよ」と提案しました。一つは少数精鋭で仕事のできるメンバー10人に絞り、分配を変えて、給料3000万、交際費1000万にする。もう一つは、そういうことは考えずにスケールする。
10年間の仕事を振りかえったら、M&Aで譲渡した中小企業の社長は、従業員を路頭に迷わさずに済み、喜ばれている。これはひょっとしたら社会的に意味のある大事な仕事かもということに気が付いた。それやったらもっと多くの人にこの喜びを与えよう、給料も交際費も、もうええと。
その代わり、スケールさせるから「24時間365日働くぞ」と内外にメッセージを出しました。「M&Aセンターは10周年で変わります」と。熱血集団に変わるぞ、以前の僕のやり方に変えるぞ、だからマイホーム主義者は辞めてちょうだい、と。今だったら労基法にひっかかるかもしれませんが、だけどその時はまだ未上場ですし、もともと僕はそういうタイプですから。役員にもひとり辞めてもらったし、従業員も去っていった。
家族主義を止めて、成長戦略に切り替えて、上場目指して、数年後にマザーズ、その翌年に東証一部までトントンときたということで、モードを10年目で変えました。
そこからまた私がリーダーシップを取り出しました。
I:その時のリーダーシップは、前の名古屋時代の時とは同じものですか?
M:基本的には一緒ですが、リーダーシップは、会社の規模と成長度合いによってどんどん変えていかなければいけないものかと思います。上場前後までは社員のベクトルをきちっと揃えることが大事。全員が同じ方向をピタッと向いてベクトルをそろえると、力はその合計値になりますから。1人でも2人でも、違うベクトルを向くと、その分相殺されてガクっと力が減ります。とにかく方向性をそろえるということをやりました。そういう意味では私が神であり、憲法であると。僕の意に沿わないことは、この会社ではあり得ないという考え方ですね。
ビシッとそろえたことで割と早い時期に上場を達成することができた。上場してからは、さらなるスケールをしていかなければならないので、それまでのワンビジネスモデル、ワンリーダーシップから今度はマルチリーダーシップ、マルチビジネスモデルでやろうと。
コミュニケーションを図るために合宿を
M:僕の言うことだけが会社の理念、やり方も価値観もひとつしかない。だけど上場したら、今度はもっとスケールさせるために部長を作って、それぞれのフィールドでリーダーシップを発揮する。マルチビジネスモデル、マルチリーダーシップに変えていきました。
僕も可能な限り人の意見を聞くようにしました。その頃から合宿を始めたのです。
リーダーシップの根源はビジョンを明確にすること。行先の分からない船に乗るバカはおらん。みんな人生かかっていますから、人生かかっている人たちが本気で仕事をしてくれるためには、ちゃんと行先を示さないと、というのが私の考えです。だからビジョンを明確にすることをまず大事に考えています。
その上で、コミュニケーションを大事にします。コミュニケーションというからには双方向性が必要なので、まず私からの発信はとても丁寧にやっています。今でも続けていますが、毎月執筆したリポートを社員に完全に読み込むことを要求しています。会社会議で「××さん、今日のサマリーを言って」と。言えなかったらすぐ退場。僕は心血注いで、たとえば9ページ書いたのだから、9ページの反省文をもってくるか、辞表をもってくるか。
徹底してコミュニケーションしますよ。サマリーを話させた上で私がまた1時間かけて話します。とことん僕の考えを社員に伝えるというのをこの20年、毎月やっています。
それだけではこちらからの一方通行なので、今度は社員の話を聞くために、年間45回の合宿をしています。
I:合宿ですか?
M:ついこの間までは全社員とやっていました。8人ずつ40回で320人参加できます。それを週に1回、泊りがけで行っていました。毎週やりましたよ。今は社員数が650人位になってしまったので、中堅社員との合宿とチームごとの合宿を月2回、年24回行っています。それからブレックファーストミーティング。今朝もやってきましたが、7時半から9時までの1時間半、週に1回、年45回。
合宿は6時から9時まで僕がファシリテーターになって社員の話を聞く。「今の問題点、どう?」「会社の矛盾はない?」「今のやり方でいいと思っている?」とかいろいろなことを聞きます。その改善策を「今の話、どう思った?どうしたらいいと思う?」と可能な限り聞き出して、良いものは即翌日から実行します。社員も本気で取り上げてくれると思うから、一生懸命話をしてくれます。発信と聞くことをずっとやっています。
ビジョンを明確にして、コミュニケーションを大切にする。そうしてリーダーシップを作っていっています。
I:その発想はどこから生まれるのでしょうか?
M:ふと湧き上がるのです。社員数がまだ30、40人位のときは一緒に仕事していますから、たとえば仙台に行き、泊まる。一緒に提案書も作っていますから夜、酒でも飲みながら「これ、違うんじゃない」とか直接言えて、コミュニケーションが取れていました。考え方も分かっているから、本気で怒ることができた。「会社を辞めろ」とか「首や」とか、よう言ってました(笑)。一緒にやっているから、本気で怒れた。だけどある時、本気で怒れなくなりました。上場した時からです。
I:距離ができたわけですね。
M:上場して大きくなってくると、ものすごく忙しい。毎晩予定が入っている。考えたら、社員と飯食うということがゼロだった。だから本気で怒れなくなったときに、合宿に気がつきました。
I:なるほど。
M:週に1回は社員ときっちりしゃべるということで、合宿を始めました。それが僕にとってはとても良く、経営のヒント、改善のヒントをたくさんもらえるようになりました。
I:いま、社長と一緒に仕事をされている社員の方々も、本気でぶつかってくるような社員が多いということですね。
M:そうですね。ありがたいことにこの会社に合宿文化ができました。いま650人位の会社ですから、最近入ってきた人たちは部長が合宿します。二層で合宿ができているので、まあまあうまくいっているのかな、と思います。