「有事の時に組織全体の力を発揮するためのリーダーでありたい」SEN マーケティング 杉山繁和代表-後編
行動分析に裏付けられた「早起きは三文の徳」
I:座右の銘を教えてください。
S:これが「早起きは三文の徳」なんですよ。様々な生活パターンがあるとはいえ、意外と、朝は起きられない、お昼にお昼ご飯をたべて、夜はいつまでも眠らないというルーティンになっている方が多いです。中でも朝起きるのが嫌な人は多いので、電車も道も朝は空いている。時間も同じで、朝の5時からものを考えている人はあまりいません。この時間的なスペースは、しっかり自分の準備を余裕をもってできるという意味で人生を楽にしてくれます。夜起きていられないという話もありますが、60年近く生きてきて、早く起きている方が、うまく物事が回っています。働き始めてすぐから、どの会社に勤めていても、最初にオフィスの鍵を開けるのは私でした。
社員教育は日本全体で能力を上げるためにも必要
I:社会では「働き方改革」、個人では「人生100年時代」と言われますが、最初はどのように感じていらっしゃいましたか?
S:個人に対して個人の能力を高めるということを期待するのではあれば、能力を期待されていて、その能力を高めるために何をしなくてはならないかということがはっきりしていて、それに対する具体的なサポートがないといけません。中途採用をすればいいという話がありますが、中途採用で採用される人はその能力をどこかで磨いてきています。流動してしまうことも前提としながら、在籍中にその人の能力を高めるサポートをしてあげないと日本全体として能力がどんどん下がっていくことになってしまいます。流動性を高く持っていることは個人の自由も含めて大事だと思いますが、企業は「どうせいなくなってしまうから」というようなことを言わずに、メンバーとして必要な能力を身に着けられるようなプログラムの準備は必要です。
I:我々がリサーチしているソーシャルスキルについてご意見をいただきたいのですが、中でも、ビジネスにおいて大切と思われるスキルはどれとお考えでしょうか?
S:少なくとも「状況適応力」は必要だと思いますし、私は特に、「共感する能力/他者を理解しようとする能力」は大事にしたいと思っています。「探求する力」に加えて、新しいものを作っていかなくてはならないので「創造的思考力」も。
自己認識は大事です。自分のことを認識して強み弱みを語るのは面倒ですし、恥ずかしい。一方自己認識は人に話して初めて意味を持つものでもあります。良いところも、悪いところも表に出していくのが重要ですが、日本人はそれが下手な人が多いですね。
ビジネスの基礎という視点でみて、戦略は実行であるという意味では「実行力」、分析をして課題を出して解決するには「批判的思考力」「問題解決力」、物事を決めるとなると「意思決定力」という見方もあります。間違いではないし、大切なことですが、関わる人の気持ちや価値観の持ち方を考えると、それらのスキルだけではコマンド型になり、行き過ぎるとパワハラも起こり得ます。物事を進める勇気は必要なのですが、先にいるお客様のことまで想像し、一歩踏み込んだところへ思考を飛ばすには、「共感する力」や「創造的思考力」が求められます。
戦略としてこうすべきとか、こうあるべきというのを書くのは簡単ですが、(働く人が)裏側にあるものを我慢して組織が成り立っている部分があった。お金もらうからしょうがないといったような理由で。これからは我慢できない人や我慢しない人も増えていくので、(働く個人を)理解して、根気強くコミュニケーションをすることが大事です。
一方、理解される側は理解してもらえるのだから、能力で答えないといけない。お互いの価値交換ですから、自分は何ができる、何ができない、何で貢献できる、できないところはサポートしてくださいと伝える、つまり自己認識力も必要になってきます。
I: 1万人に調査をした際の結果からソーシャルスキルを5分類しました。メンタルケアに関連するスキルの所持率が他に比べて低く出たのですが、それをお聞きになられて、どのようにお考えになられますか?
S:不安や緊張を感じるのは、自分がどこに向かっているのか、何を持っているのか、何か自分がしっかり座るところをもっていない時と考えます。自分自身が空っぽのまま誰かに向き合ったり、何の楽器をもっていないのに、ステージで演奏してきなさいと言われたりしたら、不安になります。縦笛1本でもあれば、ステージに立てますが。
コミュニケーションをするにも、何かネタがないとコミュニケーションできませんよね。何を相手が言っているのか、何を期待しているのかをやりとりをするのがコミュニケーションであるとすると、(相手やその先に)思いを馳せるということができていないと。それが付加価値創出力(関連スキル)につながります。いかに創造的思考や問題解決力や自分の考えを持つかということに意識があれば、メンタルケアにもコミュニケーションにもつながるのではないでしょうか。
I:若い人全般に不足しているものがあるとしたら、どのスキルでしょうか?
S:思考力。考える力。(ソーシャルスキルの中では)批判的思考力や創造的思考力ですね。GOOGLEに入れるとリストが出てくる。その順番で物事を考えることになってしまいがちで、調べることが直線的になっています。検索結果の表示は恣意的にやっているとは言いませんが、裏にロジックがあってその順番で出てきているものなので。(そのまま受けとめるのではなく)自分で考えることをやっていく必要があるのではないでしょうか。
I:今のお仕事でも、近いことをされていらっしゃるのでしょうか?
S:先に少しお話をした「考える」という点をちゃんとやっていきたいなと。アカデミックに触れるとアカデミックになりすぎるし、現場に行くと現場に寄りすぎるので、その間のところで。難しいことを難しく言って難しい人たちだけで喜んでいるのではなく、もっと現場に近い人たちと一緒に。私は今、中小企業の方々とコミュニケーションを取っていきたいのです。中小企業に支えられてきた国でもあるので。考えて語るというテーマを話すと、中小企業の方々にはお偉い先生方のおっしゃることといわれてしまうのですが、誰にでも考える必要はあり、機会はあります。考えて語るということは誰にも許されることなので、もっとお話をしていきたいと考えています。
(Vol.1-2完)
プロフィール:
杉山繁和氏:1987年早稲田大学教育学部卒業。ライオン株式会社 マーケティング本部 市場情報部、日本コダック(1996〜99年)、日本ケロッグ(1999〜2001年)を経て、日本コカ・コーラ株式会社 経営情報部 統括部長などを経て、2009年株式会社資生堂に入社。経営企画部 市場情報室室長を務める。2012年執行役員に就任し、企業文化・宣伝制作を担当。2014年 国内化粧品事業マーケティング領域、CPBグローバルユニット担当。2015年より、日本事業本部コスメティクスブランド事業本部長。地域本社資生堂ジャパンの設立に伴い、2016年1月からは同社のコスメティクスブランド事業本部長を兼務。2017年1月1日付で資生堂ジャパン代表取締役 執行役員社長に就任。2020年1月資生堂ジャパン副会長を経て、2020年7月1日からSENマーケティング事務所代表。