「有事の時に組織全体の力を発揮するためのリーダーでありたい」SEN マーケティング 杉山繁和代表-後編

 リーダーはいかにしてリーダーになったのか。リーダー自身の言葉からその理由を紐解くインタビューシリーズのVol.1では、杉山繁和氏に話を聞いた。現在、ご自身で立ち上げられたSEN マーケティングの代表である杉山氏は、2020年6月まで資生堂ジャパンのCEOを務めていた。それ以前は、日系と外資とタイプの異なる消費財メーカー数社の、主にマーケティング領域でリーダーを歴任されてきた。「ちゃんとしたリーダー像をイメージとして描かれていると期待から外れているかもしれないという意味で申し訳ないのですが」とご謙遜される理由も含めて、示唆に富んだお話をお聞かせいただいた。その第2回ではリーダー像やスキルについて伺った。

第1回「求められるのは自分の頭で考えて、自分で提案すること」はコチラから)。

ドラッカーと「のぼうの城」

IFLATs(以下、I):改めて影響を受けたリーダーついて伺います。先にライオン時代の上司の方を挙げられましたが(注:インタビュー第1回をご覧ください)、他にはどのような影響を受けましたか?

杉山繁和氏(以下、S): ライオン時代の上司の下にいたときに、ある代理店の戦略部門の方と定期的にお話をさせていただける機会がありました。その中で、「あなたはドラッカーも知らないのか」と言われたのがきっかけで、ピーター・ドラッカーの書籍を読み始めました。ドラッカーは企業とは、利益を上げる存在であると言っています。経済的効果を産めるのが企業であり、組織を持続させるにも、社員を雇用し続けたり、文化支援や社会貢献をしたりするにしても、資本として大事なのは利益であると。ドラッカーが様々な理論を提唱されている中でも、特にこのことは、様々な場面で繰り返し思い出します。

I:テレビや漫画などでも様々なリーダー像が描かれていますが、その中に好みのリーダー像はありますか?

S:これを言うと本当にあなた大丈夫?と思われてしまいそうですが、映画「のぼうの城」の成田長親なのです。豊臣秀吉が落とせなかった忍城の城代である長親を野村萬斎さんが演じている2012年の映画です。長親はぼそぼそ物を言い、のそのそ歩き、農業に興味があって勝手に農民を手伝っているところを部下に連れ戻されるような人で。でくのぼうから「のぼうさん」というあだ名をつけられているのですが、民から人気がある。
秀吉に派遣された石田三成は2万人の兵を持つ一方、北条側の長親には500人の兵しかいません。北条には籠城を指示されるのですが、長親は戦うことに決め、勝利を収めることになるのですが、その鍵は民にあったというストーリーです。
一般的にリーダーシップ像というと、普段から先頭に立つ信長のようなスタイルがもてはやされますが、私はそういうタイプではない。長親はビビりで、マイペースで普段は冴えなくても、ここはというときにしっかり組織の方向を決め、かつ組織のメンバー全体のサポートをもらえる。有事の時に組織全体の力を発揮するためのリーダーの方が面白いと感じます。

I:今のビジネス界やスポーツ界などで注目している方はいらっしゃいますか?

S:サッカーの久保(建英)さん。状況に流されて決めているのではなく、自分の実力と能力開発で突破していっているように見えます。やや職人的な印象も受けますが、自分で考えて自分で動くという本来的なところで非常に尊敬できる人だと思います。この若さで、彼の仕事のために必要なスキルを身に着けている。こういう人がリーダーになっていくと、背中を見るという意味ではよいのではないでしょうか。

直観力≒危機と機会の察知力

I:先ほどスキルという言葉がありましたが、リーダーシップにとって大事なスキルはどのようにお考えですか?

S:いろんな考えがあると思いますが、自分のスキルの優位性について聞かれたら、「直観力」答えます。直観力を分解するのはむつかしい作業ですが、「危機察知力」や「機会の察知力」のことと捉えています。振り返って考えてみると、ここであれを止めておいてよかった、やっておいてよかったと思えることが、人より少し多く、もしかすると直観力が半歩くらい前に出ているのかもしれません。
どうしたら直観力を鍛えられるかと問われると、そのためのトレーニングをしてはいないので説明しきれませんが、ライオン時代の上司の差配で様々なところに出入りしたり、学生時代のアルバイトで多様な人に触れ、経験を得たりしたことが状況の想像をする際に非常に役に立っています。例えば、商品が店頭で売れるか売れないかという話をするときも、スーパーのバックヤードや問屋の倉庫の状態、においや雰囲気も含めて、判断の材料になる。
引き返すタイミングも同様です。中に入って挑戦するのも大事ですが、必要なときには逃げるも大事。勝ちたいという欲求はリーダーシップではありません。いかに死なずに帰ってくるか、そこの見極めも判断力という意味ではスキルです。

勝ちたいという欲求はリーダーシップではありません。いかに死なずに帰ってくるか、そこの見極めも判断力という意味ではスキルです

聞いたことを素直に試してみたこともある

I:そうしたスキルは積み重ねた経験なのか、それとも書籍等も含めたインプットに支えられるものでしょうか?

S:経験は大きいですね。リーダーシップのスタイルひとつをとっても、様々なアドバイスをいただきながら、またはセミナーを受けながら、試してみました。コマンド型のリーダーシップを取ってみたらどうだろうかとか、ハンズオン型で自分が先頭に立って、どんどん中に入っていったらどうだろうかと。そのどちらの形でもうまく動いている組織がありますが、私が担当した組織ではあまりしっくりきませんでした。経験の中から取捨選択したり、考えがそぎ落とされていったりしましたが、それを助けていたのは、直観力や判断力と考えています。
経験だけではなく、知識は必要なので、割合を正確には言えませんが、50%は座学またはコーチング含めて必要ではないでしょうか。経験だけでも難しいですし、ロジックやフレームワークだけではその意味がよくわからないので。素直に読んだことを現場で試したこともあります。やってみると、これは嘘、本当、とわかることがあるので、試してみると良いのではないでしょうか。
本は結構読みます。わかっているように思うことでも、捉え方や整理の仕方で頭がすっきりすることがありますので。最近凝っているのが、中高生向けのビジネス書や哲学書を読むことです。これが、全然簡単じゃないんです。それでも、難しいことをいかに簡単に書くかということに執筆者は努力されているので、昔読んでわからなかったことが、もう一度読み直すと、少しわかるようになります。

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