国際スポーツ大会運営に必要なスキルー前編
エンターテイメントとしてのスポーツ
北京2022オリンピック競技大会が2月4日~20日まで、パラリンピック競技大会が3月4日~13日まで開催されました。運営側にとっては、大会前後の10日間をどう乗り切るか。ここが体力面において重要なポイントです。昨年は僕も組織委員会の一員として、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で経験しました。精神的にはもっと早く、半年前からチャレンジングな状況が国際大会では続きます。開幕が近づくとゴールも見えてくるので、プレッシャーの種類が変わり、意外と気持ちは少し楽になっていきます。
スポーツというエンターテイメントは白黒はっきりつくのが醍醐味だと個人的には思っています。相手との競争だけではなく、数値が明らかになるところに面白味があります。僕がやっていた野球で言うと、球速140キロ以上を何球出した、ストライクのパーセンテージ、ストレートと変化球の比率などの値が出ます。僕が今、熱中しているランニングの世界でも自分がそのレースで何位であるかということに加えて、自己タイムという自分軸の記録も出ます。相手と比べて現在自分がどの位置にいるか、また自分の記録の中での位置づけも明確になり、白黒がはっきりと出る世界です。
ビジネス化がスポーツを支える
スポーツをエンターテイメントとして楽しむためには、ビジネス化が欠かせません。それがスポーツビジネスです。まずは、選手がいることが大前提ですが、ビジネスとして運営をすることで、トップレベルのパフォーマンスを見せる機会が増えたり、そのスポーツの競技人口が増えたりします。逆もしかりで、ビジネス化が進まないとパフォーマンスを見せる機会が減り、プレー人口も減り、そのスポーツの存続に影響が出てきます。これだけ人気を誇っているサッカーのワールドカップ予選でさえ、日本代表のアウェー戦のテレビ地上波放送が無いことに危機感を持ったコメントが日本内外から出ているのも、その一例です。どのようなスポーツでも運営する側がプロでなければ、どれほどコンテンツが良くとも成長せず、存続が危ぶまれます。
スポーツの歴史は長いですが、ビジネス化を加速させたのは1984年のロサンゼルスオリンピック大会と言われています。さらに2000年のシドニーオリンピックで現在に通ずるフォーマットが生まれ、その場を経験した人材が多数、今も国際大会運営において活躍をしています。
日本でも様々なスポーツイベントの開催が増えています。2000年以降は一番の観客動員数を誇る国内プロスポーツがよりビジネス主眼になり、規模を広げていく中でスポーツビジネスに係る人々も増えてきました。日本のスポーツビジネスの多くは関係会社が社員を派遣することで成り立ってきましたが、プロリーグが増えたことで団体による直接雇用が増加しています。スポーツ界以外で経験を積んだ人へ門戸が開かれ、市場が活性化しているのが直近10年の動きです。僕自身が学生だった約20年前の就職活動では、プロチームの球団事務所にアポ無しで行って直接履歴書を持ち込んだりもしたものですが、ほぼ門前払いでした。時代が変わり、他業界からの流入があることで、多様な経験のシナジーが生まれています。人材が揃うと、国際大会の招致は進めやすくなります。日本でも東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を始め、ラグビーワールドカップ2019日本大会など国際大会が数年置きに開催されるゴールデンイヤーを迎え、2026年にはアジア版のオリンピックであるアジア大会の愛知・名古屋での開催が決定しています。
スポーツビジネスの裏側
スポーツビジネスも、国際大会運営も、体制は通常のビジネスと大きく変わりはありません。総務、財務、人事などの「バックオフィス部隊」があり、収入を得る「セールス部隊」、スポーツの運営をする「オペレーション部隊」、それを各所に繋いで届ける「技術部隊」の4つで構成されています。スポーツだけの専門職が「オペレーション部隊」で、ここへ経験者を集めるのが一番の肝となります。特に国際大会では国外から呼ぶことも多く、ヨーロッパやアメリカには2~4年に1回の国際大会運営だけで生計を立てているプロフェッショナルもいます。希少人材であることに加え、日本ではあまり知られていませんが人気のあるコモンウェルスゲームやクリケットワールドカップ等の国際大会が定期的に開催されているため、彼らのような働き方が成立します。
増えたと言っても、スポーツビジネスに関わっている人は周りでまだ少ないのではないでしょうか?東京2020組織委員会で7000名の雇用がありましたが知り合いにいるかいないか、ボランティアまで広げていけば何人か友人が活動されていたという程度かと。関わる人数が少ないが、知名度は圧倒的というエンターテイメントビジネスがスポーツなのです。社員数100名以下でも、売上数十億円程度でも、日本全国の人が知っているという企業や組織はスポーツ界以外にはあまりないのではないでしょうか?
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(IFLATs フェロー 上村哲也)