「今、必要なのは、判別がつかないものを受け入れる柔らかさ」ミツフジ 三寺歩社長 ー後編
判定できないものを受けいれる力が21世紀のスキル
I:IFLATsでは汎用性の高いスキルの中でも、ソーシャルスキルに着目しています。ソーシャルスキルの一覧をご覧になられて、社長が重視されるスキルについてお考えをお聞かせください。
M:私は、共感する力と、ストレス、不安や緊張に対処する能力がベーシックスキルとして重要だと思います。私自身でいえば、共感力は人から強いとは言われます。
今がストレスフルな時代ということではなく、コミュニケーションのスタイルが変わってきているにもかかわらず、コミュニケーションルールがない状態であること。要は人の踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまっている。たとえばSNSで、既読と入ることのストレスの重さがあると思うのです。発信した側は既読と入らないと読んだのかが分からない。この既読という1項目だけでコミュニケーションスタイルを変えなければいけないのに、ルール、エチケットやマナーがない。スキルに、攻撃、発信、ポジティブにアクションするスキルと、ネガティブというか守るスキルの二種類があるとしたら、ソーシャルスキルは守る力だと思います。相手から自分を守る。それがまず備わっていないと自分がぼろぼろになっていくので。何かできるスキルというよりも、自分を守れるスキル、自己防衛力がソーシャルスキルとして必要かなと思います。
I:ビジネスという視点ではいかがですか?
M:ビジネススキルとしては、創造的思考力。社長であろうか社員であろうが、必要な時代であると思っています。
I:他に社長がお考えになるスキルはありますか?
M:今は、マインドフルネス、スピリチュアルという言葉が非常にあふれていますが、要は第3の力というのですか。あなたと私、それ以外みたいなところを、柔らかいままで保っていく力がいると思います。すべてをロジカルに、サイエンスにという時代が20世紀だったりすると、21世紀は判定できないものを受け入れて生きていく時代というのでしょうか。
AでもBでもないということが間違いであるということではなく、それ以外の人や、そういう事象もあるということを受け入れる時代だと思います。他者を受け入れる力ではなく、他者であるかもわからない判定できないものを受け入れる力というのが21世紀のスキルではないかという気がします。
I:経営者には、なおさらそうした力は必要になってくるでしょうね。
M:抜本的な価値観が突然変わるパラダイムシフトが、ものすごいペースで起きるのではないかと思います。コロナについても判別がつかないものを受けいれる柔らかさがないと、メンタルがパニックになっていきますよね。底なし沼とか泥沼にはまった瞬間の生きる力が、いま人に求められていると思います。
経営者もこの半年で、分からない闇の中で、懐中電灯も持たせてもらえずに歩く力が備わった経営者と、暗かったので体育座りしていましたという経営者とに完全に分かれたのではないでしょうか。少なくともミツフジは、その中で、もがきながら違う進化を遂げたのではないかと思います。
繊維業界は厳しい状況です。ただ面白いというか素晴らしいのは、厳しい制約条件の中でも進化し競争力をつけている会社は間違いなくあります。だって、衣食住は絶対になくなりません。誰もが服を着ますし、裸で歩く人は一人もいないですから。
I:ありがとうございました。
(Vol.4-2完)
プロフィール
三寺歩氏:2001年立命館大学経営学部卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック)入社。シスコシステムズ、SAPジャパン、ブルーコートシステムズなどを経て、2014年三ツ冨士繊維工業株式会社(現ミツフジ株式会社)入社、代表取締役に就任。