リーダーシップインタビューVol.1-1:杉山繁和氏 「求められるのは、自分の頭で考えて、自分で提案すること」

現場に向けてメッセージを絞り込む

I:様々な経験の中に、大きな失敗や成功があったと思われますが、その中でリーダーシップをどのように発揮されてきましたか?

S:日本コカ・コーラでの経験も、失敗と言えば失敗です。見通しを甘く見えており、自分が使えると思っていたリソースと現実に大きなギャップがありました。先に話したような対応が取れたことは大きな学びになりました。

戦略は机上のもので、実行して初めて価値が出てきますが、その実践ができたのは、資生堂ジャパンでの3年間の仕事でした。「たまたま(在籍期間中が)インバウンドだったじゃない」と言う方もいらっしゃいますが(笑)、しっかり準備できていたので、帆で追い風をうまくつかんで乗ることができたと自分では思っています。

戦略から実行へ至るまでのリーダーシップという点では、初めて試したアプローチもありました。個人としてはメッセージを色々と発信したいタイプですが、在任期間中はメッセージをかなり絞り込み、言うことをほとんど変えませんでした。先人が「一貫したメッセージ」とよく言いますが、それを体験できたのは成功でした。

I:ご自身の考えに加えて、それが求められているという雰囲気や意見もあったのでしょうか?

S:リーダーが変わる度にメッセージが変わったり、同じリーダーでもメッセージが月毎や年毎に変わったりすると、善かれとされたことが、受け手にはブレて見えてしまうということを私も感じていました。例えば店頭や対お客さまの現場などでは、戦略と実行の転換は簡単ではありません。店頭でお客さまと接する美容部員といわれるビューティコンサルタント(以下BC)は、目標達成意欲がとても高いので、どのように目標をもってもらうかで、(結果)がものすごく変わります。「ブランド価値を伝えてください」というような、ふわっとした指示ではダメで、その内容を具体的に伝える必要があります。

ブランドがお客様のどのような希望を実現して差し上げられるのか、マーケティング担当は100個も伝えたいことを持っていますが、それを123とシンプル化して同じメッセージを繰り返し現場に伝え、認識してもらいながら進んでいくことができました。最初は何を言われているのか分かっていないような雰囲気がありましたが、次第にBCが「私たちの役割はブランド価値を伝えることです」と言っているのを耳にするようになり、これは伝わったなと実感できました。

褒める機会を設けて、モチベーションアップへ

I:社員間の競争もあったと思いますが、横つまり、チーム、組織として気配りをされたことを教えてください。

S:ある地域の営業本部長リーダーから「社員はみんな真面目。5つ目標があって、3つ達成したとします。フィードバックの時に上司から『なぜ2つできなかったのか』と問われている」と聞きました。現場の担当者は、上手くいった3つのことに対するフィードバックはないのかと感じていました。対して、そのリーダーは「まず、この3つをしっかり褒める。なぜ上手くいったのかを抽出して、それを応用して残りの2つを上手くやれば」と伝えていると。

これを組織全体でやったらどうなのだろうかと考えました。彼の傘下に100人。私の傘下に1万人。うまくいけば100倍の効果がある。その彼のアイデアをもらって、資生堂ジャパン全体で「グッジョブセッション」をやりました。ただ褒める。私からもグッジョブマークをメールで送ったりして。日本全体を4つに分け、上手くいったチームの発表をして、参加者全体をただ褒め称えるためのセッションです。事業戦略説明会とは完全に別で実施しましたが、評判が良かった。こちらも褒めるので、気持ちが温かくなる。褒められる機会が少ない会社だったので、褒められる側も嬉しい。褒められるとモチベーションアップにつながるので、人数関係なく、方向性のベクトルを合わせていくための施策として良かったと考えています。

外部環境変化へ対応できるのは「考える」組織

I:社員一人ひとりがリーダーシップを持つ必要があるという考え方がありますが、そのような環境づくりについてはどのように思われていますか?

S:資生堂ジャパンのケースですが、組織全体がコマンド型で動く仕組みになっていました。流通もモノも考え方も一方通行に非常に上手く流れる。決められたことをきちんと実行するのが最も高い評価を受けられる組織でした。ただ、台風が来たり、大雨が降ったりということは実際に起きますよね。天候の話ではなく、ビジネス上で考えてもみなかった競合が考えてもみなかった商品を出したり、考えてもみなかった取引制度を出して顧客が反応したりとか。美容市場の販売プレイヤーは化粧品専門店が主流だったところへドラッグストアが大量に入ってきたとか。変化の時は、コマンド型だけではうまく動ききれません。そこでリーダーシップを執るには、マーケットに精通していてどうしたらよいかを自分で考えないといけない。考えることをしっかりやらせることこそが大事である、またそういうニーズはあると感じていました。

I:若い人や若い社員にどのようなリーダーシップを期待しますか?

S:様々な考え方があると思いますが、状況に対してフレキシブルに応えないといけないときは、コマンド型では機能しません。ボトムアップ型というと非常に無責任に聞こえますが、命令ひとつに対してそれを実行するだけではなく、組織全体で考え、ボトムアップしていくことを考えるのが必要。

I:ビジネスがワールドワイドになっていく時代の中で求められるリーダーシップはどのようなものでしょうか?

I:自分の頭で考えて、自分で提案していくというリーダーシップでしょう。前例が上手くいっていない場合、踏襲して上手くいくわけがないので、前者のモデルをそのまま後の世代へ渡すのは、ちょっと違いますよね。

チャレンジは確信を持てるストーリーと勇気をもって徹底的にやり抜く

I:コロナ禍もあり、社会の動き方が変わってきています。あるべきリーダーシップの姿はいかがでしょうか?

S:新しいことに取り組むときは、先が見えていないので、上手くいくかはわかりません。評価が後からついてくることもあれば、当たり前のものとして受け止められることもあります。ただ、上手くいかないと罰点が付いてしまう。そこにチャレンジするのは、勇気が必要になります。

資生堂ジャパン時代の2019年に、オフィスの移転をしました。その時にリモートワーク環境の議論になり、当時は多数の反対がありました。また、どのビルにするかという議論の時には、仕事の捉え方が課題になりました。営業は営業車で会社に来て、販促物を積んで出発するので、大きな駐車場、大きな倉庫、営業用の服を着ていてもおかしくないオフィスという考え方がありました。こうしたステレオタイプな仕事の捉え方を基準にすると、高速道路が近いとか、通勤に不便な場所をオフィスとして選ぶことになる。これを今後の営業の形という視点で見直すと、宅急便やアマゾンが家まで小さいものを運んでくれる時代に、営業車で販促物を会社に取りに行って積んでということが本当に必要かどうか考えることになります。結局、倉庫をなくして、営業担当者がスマホから発注すると、自分の担当している店に倉庫から配送する仕組みを作りました。営業先への直行直帰ができるようになり、営業車も、往復する時間も不要になりました。

今WITHコロナやAFTERコロナで、同じような対応をしている会社がたくさんあります。タイミングが訪れると新しいことが一機にスタンダードになってしまう。私はコロナのためにこれを実現したのではありませんが、コロナでも台風でもリスクヘッジという観点から見ると、やるべきことは同じだったのではないかと。新しいことをするときは、勇気をもって、確信を持てるストーリーを描いて徹底的にチャレンジしてやり抜くこと。それがリーダーの仕事だと考えています。

(Vol.1-1終了)

 

プロフィール:

杉山繁和氏:1987年早稲田大学教育学部卒業。ライオン株式会社 マーケティング本部 市場情報部、日本コダック(1996〜99年)、日本ケロッグ(1999〜2001年)を経て、日本コカ・コーラ株式会社 経営情報部 統括部長などを経て、2009年株式会社資生堂に入社。経営企画部 市場情報室室長を務める。2012年執行役員に就任し、企業文化・宣伝制作を担当。2014年 国内化粧品事業マーケティング領域、CPBグローバルユニット担当。2015年より、日本事業本部コスメティクスブランド事業本部長。地域本社資生堂ジャパンの設立に伴い、2016年1月からは同社のコスメティクスブランド事業本部長を兼務。2017年1月1日付で資生堂ジャパン代表取締役 執行役員社長に就任。2020年1月資生堂ジャパン副会長を経て、2020年7月1日からSENマーケティング事務所代表。

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