「経験から逆説的に、小さく始めるビジネスモデルを生む」TKP 河野貴輝代表取締役社長 -前編
イーバンク銀行の創業メンバーを経て、起業
I:イーバンク銀行創業時のエピソードを教えてください。
K:まぁ大変でしたね。やはり伊藤忠商事というブランド力は凄かったと目の当たりにしました。辞めたら当然「伊藤忠商事の河野です」とは言えないわけです。当時、銀行免許を取る前は、日本電子決済企画株式会社という名称でしたが、「日本電子決済企画株式会社の河野です」といってもなかなか話を聞いてもらえない。ベンチャーというか、会社を作るというのは本当に大変なんだなと実感しました。ネットバンクをゼロから作りましたから、その時に培ってきた色々なネットワークが、TKPを創業するときに活かされていますね。
カブドットコム証券も、イーバンク銀行もインフラビジネスです。だから巨額の初期投資が必要になります。ネットワーク、ビジネスモデルの考え方も含めて色々なことが僕の中に逆説的に蓄積されていきました。
I:同じ創業でも、TKPの時は違いがありましたか?
K:イーバンク銀行の時の大変さを経験したので、小さく生んで大きく育てるビジネスをしようと決めていました。少しでも儲かるエンジンを作って、ピカピカに磨いて、レバレッジをかけて大きくするんだと。小さなエンジンから雪だるま式に大きくするということが重要。これがTKPの一つ目のビジネスモデルの根幹です。
もう一つ大事なことは、信用力と資金調達力とブランド力です。この3つを兼ね備えないとベンチャーは伸びない。ある一定で終わってしまうということに気づきました。それがTKPの二つ目の根幹です。そして三つ目は挑戦と撤退の決断。挑戦しても大企業の場合は簡単には撤退できないわけです。それと比べて、オーナー社長のいいところは、ダメだったら自分の意思で撤退できること。ここは強いところだし、それができないならベンチャーの意味がないと思います。
I:イーバンク銀行を辞められて、いよいよ自ら起業されたのは、どういうきっかけからですか?
K:元々幼少期の経験から起業に興味があったのですが、自分がオーナーで事業したいという思いが強くなって独立しました。
貸会議室事業のきっかけ
I:貸会議室という事業は、どういうきっかけから生まれましたか?
K:事業内容はどんなものでもよかったのです。TKPという会社名の由来は、自分の名前で「Takateru Kawano Partners」の頭文字でTKP。事業内容を社名にしていないので、何をやってもいいわけです。会議室というビジネスは瓢箪から駒みたいな話でした。事業を興そうとイーバンク銀行を辞めましたが、生きていくために必死な状態でした。会社を辞めたら給料はもらえないので、自分で稼がないといけない。たまたまそこに、取り壊しの決まったビルがあったことがきっかけですね。
I:そのビルから現在の事業モデルまで、どのように道筋を立てられたのですか?
K:六本木に取り壊しの決まった古い3階建てのビルがあり、2~3階は立ち退きが終わり、1階のレストランが出るまでは誰も使わないという話を聞きました。もったいないじゃないですか。それなら僕が借りましょうという話に。立ち退き予定のビルでしたので、当時の相場の三分の一で借りられました。ワンフロアが20坪、2フロア借りて40坪ありました。六本木ミッドタウンの横で市場平均では坪1万5,000円のところを、坪5,000円で借りて、2フロアで20万円。ワンフロアは近くで工事をやっている建設会社の仮設事務所として25万円で貸しました。敷金・礼金なしの代わりに、3ケ月前に通知を出したら出ていってもらう条件です。そうして25万円が入ってきて、僕がビルオーナーに払う家賃は20万円ですから、5万円の利益が出ました。まだ1フロア空いていたので、ここを時間貸しの会議室にしようかなと思って始めたのがきっかけですね。
I:その1フロアを起点に、すぐにビジネスは順調に進みましたか?
K:思いのほか会議室の方が儲かりました。20坪のフロアを、50人収容の部屋にして1時間5,000円の部屋として貸し出したところ、100時間ほどの利用がありました。1ヶ月で50万円入り、それは全て利益。すごいビジネスだと。しかも取り壊しが決定しているビルですから、ビルのオーナーとの契約は、賃貸契約ではなくレンタル契約でした。そうすると月末締めの翌月末払いになります。賃貸契約ではないので、敷金礼金も不要。しかも3日以内に入金いただく規定にしていたので、3ヶ月分の入金が先にあることも。これはびっくりですよ。通帳記帳すると、大手企業の名前がたくさん印字されていて、需要の高さとビジネスモデルの良さを実感して、本格的に始めました。
(Vol.6-後編へ続く)
プロフィール
河野貴輝(かわのたかてる):株式会社 ティーケーピー 代表取締役社長/1972年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、1996年伊藤忠商事株式会社へ入社。為替証券部でトレーダーとして資金運用を担当。日本オンライン証券株式会社(現:auカブコム証券株式会社)の設立に携わり、続いて、イーバンク銀行株式会社(現:楽天銀行株式会社)の創業メンバーとして参画。2005年32歳で株式会社ティーケーピーを立ち上げ、代表取締役社長に着任。同社を急成長させるとともに、景気の波を乗り越えつつ、パートナーシップやM&Aによる事業拡大を遂行。