「欲を出さずに潔く、トップの覚悟を見せる」エスクリ 渋谷守浩代表取締役―後編

正面から真摯に向き合う、渋谷流の付き合い方

I: 社長ご自身は人を理解するとき、どんなところを一番気にかけて部下の皆さんとコミュニケーションをされていますか

S: 部下に対して、社員に対して、子供に対して、友達に対して、誰に対してもきちんと付き合うことだけは、しようと思っています。笑ってあげなければいけない時は笑おう、叱ってあげなければいけない時は叱ろう、金であろうが力であろうが、助けなければいけない時は助けよう、という付き合い方を自分ではしていると思います。それこそ、その人のためになるならば、絶対に騙されてるとわかってても、あえてきっちり騙されてあげることも。こちらの損得は持ち込まず、を騙さないと無理なだろうなという相手の状況を汲み取るんです。
今は、パワハラやセクハラが怖いからと、日本中がコンプライアンス奉行みたいになってしまっていますが、は気にせず叱るときはきっちりと。それで問題にならないのは、私に悪意がないからだと思います。持論ですけど、人間って本当に全部隅々までちゃんとしている人っていないと思います。誰しも、何かは欠けている。現代で特に、コミュニケーション能力とか思いやりとか。人としての魅力が何かを学校は教えない。でもそれを磨いて、自分の武器にできたら、それこそもっと売れるとか仕事がしやすくなるとかあるわけです。そこは、言葉でも態度でも伝えます。例えば、会議で叱られたらせめて反省してますと首振るだけでも、相手に伝わるよと。それを斜め向いてじっと一点を見てたら、反抗しているようにしか見えないんだから、せめて首を振れと。
本当は言いたくてもちょっと回り道して、相手が自分から気づくのを待つこともあります。もう言わないといけないタイミングまで来たら、きちんと言う。そして叱ったら1秒で忘れてやる。とにかく水に流すことも大事だから、自分の中にメリハリを作っています。

I: 今のお話は、リーダーとしての導き方そのものですね。

S流ですけどね。だからこれには、のビジュアルと声のトーンが大事だと思います。の声って、一般の人からしたら結構でかい。でも、はこれ以上小さな声で喋れないんです。囁くようになっちゃう。かといって怒る時もこの声で、いつでも声が一定なんです。それに、この声が銀行関係からは褒められる。「渋谷さんぐらいの声のトーンと太さがある人なら経営は多分大丈夫です」と言っていただけます。ビジュアルと声のトーンが、うちの会社の経営スタイルには合っていますがもっと華奢で色白、声が小さかったら、今のやり方は合わなくてもっとロジカルな経営をしないといけない。見た目考え方やり方のバランスが上手くとれて出来上がって行くものだと思います。
背中を見せることも上に立つ者としては大事だと思います。コロナの影響で、ウエディング業界でも給料カットがありました。エスクリも社長であるの給料を6割カットしました。最初は「ゼロに」と言ったら、前例を作られると次に社長になった人が困るからという理由で却下されて、だったら業界で一番引いた金額にということで6割カットに落ち着きました。ボーナスどころか給料を6割カットしてるとなれば絶対響くものがあるから。社員は「社長が6引いてるのに文句言えないです」と。やっぱり背中見せる、行動見せる方が部下たちは学びますよ。

I: 社長によるリーダーの育成方法はありますか?

S: ないですね。絶対無理です。素質と資質がその子の人生を決めるから。目指していい範囲の天井は決まってると思うので、それ以上やると不幸だし、それ以下では生っちょろいし、背伸びして頑張れる程度は頑張ったほうがいい、ということだと思います。経営についても、のやってることを後ろで見て学んで、良いとこを盗むしかないです。自分の使えるところだけ盗めと。が「お前こうだよ」と言うのは、の足しにもならなくて、己を知って、自己流の経営を作っていき、それが何年もつかという話です。時代の流れとその時起きる事件事故、いろんなことも関係します。も、今こんな偉そうにインタビューを受けていますが2年後に旬は終わるかもしれないですから。経営者の旬は、魚のお造りより足が速いは思います。

経営者の旬を維持するために

I:経営者の旬を維持するために、社長が心掛けていることはありますか?

S: 100年企業の4代目の血を継いでるがゆえに、何か違ったDNAを先祖から頂いたかもしれないので、その運を尽きさないように感謝を忘れないことです。は、毎朝絶対に太陽に手を合わせ、雨の日も風の日も手を合わせ、とにかくその土地の氏神様と健康の神様に感謝をして深呼吸をし、肩甲骨を合わせるようなストレッチで「よしっ」と気合を入れるのがルーティーンです。そのルーティーンの中で、の経営者としての旬が今日も終わらないようにと祈る。自分が引退するのはいいとしても、会社がありますから。経営者の最大にして、最後の仕事は後継者を作ることだと思います。後継者を作れていないが引退を迎えるのは、一番やってはいけないことです。渋谷にしても、エスクリにしても、もう大丈夫という後継者を作り、代表権を譲って数年だけそばで見守り、引くと決めたら一切会社に寄り付かないくらい距離を置いて完全に引退する。綺麗にバトンを渡したい。で、「あいつ生きとんのか」と言われるぐらい姿を消そうと思っています。

I:目標とする経営者の方や、尊敬される人物はいらっしゃいますか?

S: はそういう人は一切いないです。は自分の描いた経営者で終わりたい。上を見たらキリないですよ。ソフトバンクの孫さんみたいに「10兆でも満足しない」なんて言ってみたい。孫さんやSBIの北尾さんのように経営者としての旬が終わらない経営者もいます。でもね、やっぱり身の程を知っていますからも。田舎もんで一流大学すら出ていないが、東証1部上場企業のグループ全体の代表者となって、ちっぽけとはいえ、300億以上の売り上げがある。その中で代表権を持ち、仕事をさせていただいているだけでも、もう十分幸せなことです。

もっとも必要なスキルは「問題解決力」

I: IFLATsではスキルのリサーチをしています。ソーシャルスキルと呼んでいる15のスキルの中で、社長ご自身が重視されているスキルはありますか

S: 一番大事なのは問題解決力だと思います。問題解決力があれば、継続力もついてくるし、実行力にもなるし、コミュニケーション力必要になります。感情の波をコントロールしてるから問題解決できるわけでもないし、自己回復力がないのに問題解決ができるわけないし、ストレスで倒れそうになっていたら問題解決できないですよね

I: お話を伺っていると社長は、感情の波をコントロールする能力にも長けていると思いますが

S: 多分それなりに長けていると思いますし、その能力を持ってないなければ経営者は難しいと思います。感情的にならずに伝えることで、局面も変わります言葉尻と最後の5文字のコントロールは、気をつけています。表現の仕方次第で、相手の感情も変わりますし、どんどん自分に興味を持ってもらい、見た目は悪いけど人は悪くないと思ってもらうためには、最後の5文字がすごく大事です。

I: その辺りは、どうやって学ばれましたか?ご自身の経験の中で自然に身についていったのでしょうか

S:それが立派なことだと思ったことが一回もないので、分からないのですが、それだけトラブルを多く経験しているからかとトラブルを突破し乗り越えた数だけ学んでること多いと思います。生きてく知恵です知恵と勇気と覚悟。15のスキルの中でも知恵が関係あるのは問題解決力でしょうね。だから痛い目にあったはいろんなこと知ってる。ですが、そこでもまた二通りあって、痛い目にあっても学ばないもおるんですよ。だからその痛い経験をしたときに、学ぶことを知ってる子は自分の資産になっています。やっぱり国語を知っている子は強い。こういう表現をする、こういう言葉尻で伝えると、言葉を武器に出来るんです
学歴も大事ですが、生きていく上では、学校で教えてくれない頭の使い方も大切。対人関係の構築・維持力も、コミュニケーションもそれに当てはまりますよね。第一印象だけで私を避けて通る人とは、その先にいいご縁なんてないし、そうでない人となら素晴らしいご縁を築くこともできるはずなので、そのことには人一倍気をつけています

(Vol.7-後編 終了)

プロフィール

渋谷守浩(しぶたに・もりひろ):奈良県桜井市出身。1987年修成建設専門学校卒。社外での経験を積み、家業の株式会社渋谷へ。2013年渋谷をエスクリへ売却し、同社執行役員、取締役を経て2016年からエスクリグループの全事業トップを務める。

 

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